平成16年度 2次本試験事例 <生産・技術> |
D社は、従業員171名、社歴40年の、大都市周辺の街でマンション・オフィスビル用の水道蛇口 を製造販売してきた企業であるが、平成16年度は売上高約34億円、経常利益約2,600万円が 見込まれている。オーナーである会長および社長が昔から業界団体で活躍し、業界内での 知名度が高く信頼も厚い。主にゼネコンから受注し建設現場に納品しているが、一部取り付け 工事も請け負っている。水道蛇口の種類は、従来型製品として黄銅などの鋳造、メッキすると いった製造工程によって製造されるもの(以下、従来型製品という)と、新型製品として防錆に すぐれたステンレス製でデザインも重視し、温度自動調節などができるもの(以下、新型製品 という)があり、新型製品では、高度化、高付加価値化、多様化が進みつつある。従来型製品 に関しては納入先からの価格値下げの圧力が強い一方で、製品ラインナップではさらに多品 種化することも求められている。また、最近は新築だけでなくリフォーム需要が伸びつつある。 現在の工場設備は今の製品構成のままであれば、当分の間は毎年5千万円の維持的な設備 投資を行うことで製造を続けていくことが可能であると考えられる。しかし、将来的な製品ニー ズへの対応を考えると、また、周辺が宅地化しているので遠からず排出物、騒音等の環境 問題への対応が必要となることから、次のような、現所在地から約100km離れた場所へ工場 移転およびこれに伴う新設備の導入計画案も検討している。 @ 新工場については新たに土地を取得し工場を建設する(土地代1億5千万円、工場建設代 4億円)。 A 新工場では現在の製品種類に対応しつつ新型製品の展開を図るべく、従来型製品と 新型製品の両方を製造するための設備を用意する(従来型製品用設備代3億円、新型製 品用設備代2億円)。 B 本社・販売部門は取引先との関係で現在の場所に残すので、工場は除却するが土地の 売却は考えていない(現工場除却代5千万円)。 C 現在の本社・販売部門および工場の情報システムは構内LAN(バズ型)で結ばれてい るが、工場の移転にともなって、そのシステムを変更しなければならないものの、その 計画は未定である(投資金額も未定)。 ところが、この投資案に基づいて、新工場設備の償却終了を予定している5年後の予想決算 書を作成したところ、現段階の案では、5年後には現在の当期利益よりも減少してしまうという 予想結果となり、財務的な問題点を踏まえてこの計画を再検討しなければならないと考えて いる。 そうした折、ある大手蛇口メーカーX社からD社を15億円で買収したいとの提案があった。 従業員の雇用を含め、現在の事業をそのまま継続し、オーナーである会長および社長のみが 交代するという申し出であるので、自分たちとしては、「このまま事業を続けるよりも、いっその こと売却してしまおうか。」との気持ちも若干芽生えている。そこで、この買収提示額が果たし て妥当な金額であるかを検討したいと考えている。 一方、リフォーム需要の増加傾向を踏まえて、製品供給とともに取り付け工事一式を本格的に 請け負う事業に乗り出さないかとの提案を大手ゼネコンY社から持ちかけられており、D社で は、この新規事業への進出の可能性も検討している。この新規事業では大規模な設備投資 は必要ないものの、人的投資を中心とする新たな投資が必要となるので、今後の需要増加の 可能性を確率的にもよく吟味して取り組まなければならないと考えている。そこで、この新規 事業から発生する将来キャッシュフローの見込みについて、需要状況のケースを複数想定し て検討する準備を進めている。 D社は、直面しているこうした様々な経営戦略案について、特に財務的観点から中小企業診 断士に診断・助言を依頼してきた。
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